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第10夜
冴子の店が襲われてから、暫くは何の動きもなく……。
遥の乗る車を待ち伏せしたり、黒川のシマで暴れたりしていた悟の気配が全くしなくなっていた。
悟がそんな中途半端なことでどこかに逃げてしまうとは思えないのだが、実際こうも気配が無くなると、もうどこか遠くへ行ってしまったのではないかと思えてくる。
だが、蛇のようにしつこい悟のことだ。
また何か仕掛けてくるに違いないと、誠吾は遥の学校で教師として潜り続けている。
教師としての誠吾は意外にも優秀で、これまでのところ全くボロが出ていない。
今日も昼の仕事を終えて、地味な洋服に着替え教師としての支度をしていると…。
「若様、そんな地味な格好も似合うのね」
「冴子……勝手に入って来るな」
悟の動向が分からないため、冴子はあのままずっと黒川邸に留まっている。
まるで黒川の女主人のように振る舞う冴子に、誠吾も手を焼いていたが悟を捕まえるまでの辛抱だと自分に言い聞かせて耐えている。
気の毒なのは遥だ。
日常的に嫌味を言われたり、用を言いつけられてりしているらしいのに、笑って耐えている。
『僕に何か言っても、それで、冴子さんの、気が晴れるなら、平気です』
山根がちょくちょくフォローしているようだが……冴子は誠吾の見ている前では遥を虐めないので直接文句を言いづらかった。
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