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「私、後悔しているの。若様にもう付き合うのは終わりって言われた時、物分りのいい女を演じなきゃ良かったって……」
俺も後悔しているよ。
あの頃は寝る相手は誰でも良かったとはいえ、お前みたいな面倒な女と関係を持たなければ良かったと…。
誠吾はそう思いながら冴子には返事をせず、支度を進めていった。
冴子と二人で部屋に居ると息が詰まる。
自分が獲物になって、肉食の獣に狙われているような気分になるのだ。
「ここで誠吾さんと遥さんが生活してるのね……」
「じろじろ見るな。さっさと出て行けよ」
「若様、遥さんに遠慮してるの?遥さんなら、青山君や山田君に宿題教えてあげているから暫く戻ってこないわよ」
遥が居ないと知っていてこの部屋に来たのか。
誠吾はうんざりして、冴子の肩を押して部屋から追い出そうとした。
「いいから早く出て行け。ここは遥と俺の部屋なんだから入って来るな」
「あの子にそんな魅力がある?顔は可愛いけど……、男だし痩せっぽちだし話し方だっておかしいわ」
冴子の言葉に誠吾の心がすうっと冷えた。
この女は遥の何も知らないくせに…。
「遥を馬鹿にしたら俺が許さない」
誠吾は静かに……いつもよりも低い声で冴子にそう言った。
それは大声を出して怒るよりも、誠吾が今怒っているのだと冴子に思い知らせるには十分だった。
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