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「いっそのこと、冴子さんを他に預かってもらったら如何でしょうか?」
「他にって………悟から守れるようなところは………」
その時、誠吾の頭に藤代組の佐山の顔が浮かんだ。
友好関係にある藤代組なら、冴子を預かってくれるだろう。黒川組よりは小さいが二階堂よりは勢力の大きい藤代だ。冴子もあそこでなら守ってもらえるだろう……。
「藤代に預けるか………」
「それはいい考えですね。藤代なら匿ってもらうには丁度いいでしょう」
東の同意を得て、誠吾は冴子を藤代に移すことに決めた。
明日にでも佐山に連絡して、冴子を預かって貰えるよう頼むことにしよう。
そう決めてしまえば、イライラしていた胸のつかえが取れてホッとした。
東の部屋の前で、冴子がこの話を聞いていたことに誠吾と東は気が付かなかった。
自分が他所に移されるという話を聞いて、冴子は悔しそうに唇を噛む。
せっかく誠吾の傍に居られるのに。
誠吾に相応しいのは自分だと、冴子は自信を持っている。
30歳は越えているが、自分はまだ十分美しい。誠吾との間に子どもを作ることも可能だ。
黒川組の姐さんとして、家を切り盛りする自信もある。
あんな欠陥品の男の子よりも…。
冴子は音を立てないようにそっと東の部屋の前を離れた。
このままおとなしく黒川邸を離れる気は無い。
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