第10夜

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「分かった。じゃあ、ちょっと行ってくるね」 「よろしく、お願いします」 マツが出掛けて、遥がそのまま風呂場の掃除を続けていると冴子が風呂場にやって来た。 「遥さん。ちょっとお願いがあるのだけど」 「どうしました?」 遥は掃除の手を止めると、立ち上がって冴子に向き合った。 男とはいえ小柄な遥と冴子とでは、身長差が殆どない。ヒールの靴をを履けば冴子の方が背が高くなるだろう。 「あのね……。私、ここから他所に移動させられるみたいなの。こんなに避難が長引くと思っていなかったので、家に忘れてきたものを取りに行きたくて……」 「なら、荒井さんか、田中さんに、頼んで一緒に、取りに戻ったら、いかがですか?」 遥がそう言うと、冴子はふるふると首を振った。 「ここの人達、みんな私の事が嫌いだもの。私が頼んでもついてきてくれないわ」 「では、僕から、頼んでみますよ」 冴子は心底困った顔をして遥の手を取った。 「忘れたものって…亡くなった母の形見の髪飾りなの。そんなものの為では、誰もついてきてくれないでしょう?」 「お母さんの、形見ですか……」 それはきっと大切なものだろう。 だが、確かに髪飾りを取りに行くからついて来いと言っても、忙しい皆が付き合えるかどうかは微妙なところだ。 「遥さん、一緒に行ってくれない?遥さんだって華奢とはいえ男だし……私のことを守っていただけないかしら?」 「僕が、ですか………?」
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