第10夜

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情けないな僕は。 一緒に走っていた冴子さんは、女性なのに息も上がってない。男の僕がこんなにぐったりしているなんて……。 今頃黒川の家では、僕と冴子さんが居なくなって騒ぎになっているかもしれない。 すぐに帰りますと、家に電話をして連絡しておこう。 遥がポケットから電話を取り出した時だった。 「電話は駄目だよ。こっちに電話を渡してもらえるかな?」 いつの間に後ろに居たのだろうか。 こんなに近付くまで、全く気配が無かった。 「貴方は………どなですか?」 突然現れた男は、くつくつと笑うと遥のソファの前に腰掛けた。 眼鏡を掛けた男は誠吾と同い歳くらいだろうか。神経質そうな顔に、わざとらしい微笑みを浮かべている。 「初めまして。私は二階堂組で若頭をしている黒崎という者だ」 「冴子さんは……無事、ですか?」 この人は店の中で僕達を待ち構えていた。 僕達が今日、ここに来ると知っていた…? いや、冴子さんが今日店に戻るなど黒川組では誰も知らなかった筈だ。 黒川組では? 二階堂組では……知っていた? 「この状況でも私の心配をしてくれるなんて……遥さんは優しいのねぇ」 「冴子さん…………」 トレイに水の入ったグラスを載せて、冴子が現れた。 にこにこしながら遥の前にグラスを置く。 「優しいけど……貴方は本当にお馬鹿さん。さ、お水でも飲んだら?」 冴子の笑顔は綺麗だったが、ぞっとするほど冷たいものだった。
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