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第11夜
今回、遥の怪我は軽い裂傷程度で入院は必要ないとのことだった。
冴子は使われた薬物が特定できず、入院となったのでそのまま病院に留めることになった。
「遥……、さあ、一緒に帰ろう……」
誠吾が促しても、遥は誠吾を見ずに泣きながら首を振るばかりで、黒川邸には帰りたくないと言う。
「いい子だから……。とりあえず帰ろう…」
誠吾が遥に手を伸ばすと、遥は怯えたように身を引いた。
明らかに拒絶の意を示してくる遥に、誠吾もそれ以上何も言えず、気まずい沈黙が漂っていた。
「ボス、今夜はとりあえず私のマンションに尾崎君を連れて行きます。それでよろしいですか?」
「あ、ああ。よろしく、頼む………」
遥の肩を抱いて、山根がタクシーに乗り込むのを見送る誠吾の気持ちは複雑だった。
山根なら信用できるから遥の身の安全に不安はないのだが、遥は誠吾を拒絶している。
混乱していて一時のものならよいのだが…。
俺に愛想が尽きたのなら……どうしたらいいんだ。
山根のマンションの部屋は、必要最低限の物しかない生活感のない部屋だった。
几帳面な山根らしく、きちんと片付けられた部屋の中央に置かれたベッドに、山根は遥を座らせた。
「山根さん………ご迷惑、おかけして、すみません……」
「気にしないでください。体は辛くありませんか?今日はもう休んだ方がいいですよ」
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