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誠吾はその夜、遥のことが心配で一睡もできなかった。
朝になれば遥は俺の元にに帰って来てくれるだろうか。
かなりショックを受けていたが、また自殺を試みたりしたらどうしよう。
そんなことを考えていると眠るどころではない。
悶々と夜を過ごしていたが明け方になり、水でも飲もうと台所に向かう途中で山田がぽつんと広間に居るのが見えた。
「山田……早いな」
「若頭……。おざ…姐さんは無事ですか?」
「山根のところに居るから大丈夫だ」
大丈夫……だよな?
山田には大丈夫と答えたが、誠吾も心配だった。
「帰って……来ますよね?」
「ああ…。帰って来てくれる…必ずな」
帰って来てくれるのか?
山田を安心させる為に言った言葉が、かえって誠吾自身の不安を増していく。
「いつも……もう少ししたら姐さんが起きてきて、朝飯の支度を始めるんです。楽しそうににこにこしながら……。それを見てると何だか幸せな気持ちになって、今日も頑張ろうって思えるんです…」
「そうか………」
遥はいつも笑っていて、周りをほわほわと幸せな気分にさせてくれる。
それが組員達にとって、どれほど支えになっていたのか誠吾にもよく分かっていた。
「遥が帰ってきたら、笑顔で迎えてやってくれ」
誠吾はそう言って山田の頭をポンポンと撫でると、水のボトルを取りに台所に入った。
冷蔵庫を開けると、作り置きの惣菜がタッパーに入って綺麗に並べられていた。
遥が作っておいたのだろう。
みんなに食べさせるのを楽しみに作っておいたんだろうな…。
遥がこれを作って冷蔵庫に仕舞っていた時、自分に何が起こるのかなんて知らなかっただろう。
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