第1夜

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話は半年前に遡る。 その日黒川組では遥の作った夕食を皆で食べた後、広間でテレビを見ながらわいわいと騒いでいた。 テレビではクイズ番組をやっており、組員達は口々にクイズに答えて当たっただの外れただの言いながら楽しんでいたのだが…。 遥だけは浮かない顔をしてテレビを見ていた。 盛り上がる皆からそっと離れて遥が部屋に戻ったことに気付くと、誠吾も自室に戻って遥に声を掛けた。 「遥、どうかしたのか?」 「いえ………なんでも、ないです」 遥は不自然な微笑みを浮かべて誠吾を見上げた。明らかに何もなさそうではない。 「クイズ番組、嫌いだったのか?」 「嫌いとかではなくて………。自分の学の無さに少し悲しくなってしまって…」 遥は父親の借金のせいで中学生のうちからバイトをしており、高校には何とか入学できたが借金返済のためにすぐに退学せざるを得なかったのだ。 もともと勉強は嫌いではなかった。 だが、勉強できる環境になくその機会を奪われてきたのだ。 「すみません。場の空気を悪くしてしまいましたか?」 「いや、それは大丈夫なんだが……遥、学校に行きたいのか?」 遥はまだ18歳だ。 本来なら学校で友人と楽しく青春を過ごしていたはずだ。 それが自分と付き合うことでヤクザと一緒に生きていくはめになって……後悔しているのではないのか。 「学校…。行ってはみたかったです。勉強してもっと色んなことを知りたかったとは思います。でも、誠吾さんと黒川組で過ごす今の生活は凄く幸せですよ」
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