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遥がウトウトしかけたとき、インターホンが鳴った。
「誰でしょうか……。ちょっと見てきますね」
玄関に様子を見に行った山根だが、すぐに部屋に戻って来た。
「尾崎君…。ボスが来ましたが、部屋に通しても大丈夫ですか?」
「誠吾さん……が?」
遥の瞳が不安そうに揺れる。
誠吾はどんな顔をして自分に会いに来たのだろうか。
言いつけを破って家から出て、悟に犯された自分のことを、どう思っているのだろう。
会いたい。
でも、会うのが怖い……。
「どうしますか?」
「今は、会いたく、ないです………」
震える声で遥が答えると、山根は「分かりました」と玄関に戻って行った。
少し開いているドアから、誠吾と山根の話し声が聞こえる。
何を話しているのかまでは聞こえなかったが、誠吾の声を聞くだけで涙が出そうになった。
誠吾さんに会いたい……。
会って、抱き締めて、遥のことが変わらず好きだと言って欲しい…。
でも、もしも誠吾さんの気持ちが離れてしまっていたら…。
優しい誠吾さんは僕を見捨てはしないだろう。
だが、同情だけで一緒に居て欲しいとは思えない。
確かめるのが怖い。
愛される喜びと、一緒に居られる幸せを知ってしまったから。
全てを失うかもしれないと思うと、怖くて堪らない。
僕は……臆病で狡い……。
会うのを先延ばしにして、現実逃避しているのだから……。
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