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「ボスは帰りましたよ。アイスクリームの差し入れを持って来ましたが……冷蔵庫に仕舞っておきますね」
「アイス………」
遥の頭に懐かしい記憶が蘇る。
初めて誠吾と結ばれた日に熱を出して…アイスクリームが食べたいと強請ったことがあった。
誠吾はそれを覚えていて、わざわざアイスクリームを買ってきてくれたのだろう。
「誠吾さんは……優しい、です。優しすぎて………申し訳ない……です」
いっそ怒ってくれたら…。
家に居ろと言っただろう、出かける時は連絡しろと…護衛を連れて行けと言ったのに、なぜ守らなかったのだと怒ってくれたなら…。
優しくされると罪悪感が募る。
どうしたら…どうしたらいいんだろう。
翌日には遥の熱は下がっていた。
だが、食欲は無く体も怠いままで……頭に霧がかかったようにぼんやりしており、これからどうするのが最善なのか決められないままでいた。
山根は今日も仕事を休んで遥に付き添っている。目を離したら自殺するのではないかと心配で、遥をマンションに一人で置いておくことは出来ない。
しかし、いつまでもこのままと言う訳にはいかない。
黒川邸に遥を戻せれば一番良いのだが、遥自身が今はそれを望んではいない。
「山根さん、お仕事、行ってきて、ください」
「いえ、今日も休むと言ってあるので休みますよ」
「でも、山根さんが居ないと、誠吾さんが、困るから……」
確かに山根は誠吾のことも気になっていた。
昨日、玄関で誠吾を追い返すことになった時、誠吾は傷付いた子供のような顔をしていた。
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