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夜になり、再び東から連絡が来た。
『先方はぜひにと言っているそうだ。明日は土曜だから都合がいいそうだ。朝迎えに行くからな』
「ありがとうございます。では明日…」
遥は体がまだ怠いのか、今夜は早めに眠ってしまっている。
山根は明日出掛けることは、遥にはまだ言っていない。明日の外出で、遥の気持ちが少しでも救われたらいいのだが……。
絡まった糸を解くのに、今はもう藤代からの申し出に縋るしかなかった。
「お出かけ、ですか?」
「ええ。拓馬が迎えに来ます。体調は悪くありませんか?」
「大丈夫、ですけど…。黒川には……」
「行き先は黒川邸ではありません。藤代組の本邸に呼ばれていますので…」
藤代組……。
聞いたことがあるような無いような。
誠吾は仕事の話をあまりしなかったので、遥の記憶は曖昧だ。
「その藤代組に、何故僕が?」
「それは行けば分かります。あ、迎えが来たようですね。行きますよ」
訳が分からないまま、遥は山根に手を引かれてマンションのエントランスに停められていた東の運転する車に乗り込んだ。
後部座席から東に挨拶をしようとすると、助手席には誠吾が乗っているのに気付いて言葉を失った。
「遥…………体は大丈夫か?」
「………はい」
会話はそこで止まる。
お互いに何を話せばいいのか戸惑ってしまい、車内は気まずい沈黙に包まれてしまった。
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