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遥も夏樹と過ごす時間は楽しかった。
ここに今日来ていなければ、一人でまた悶々と考えて、よからぬ行動を起こしてしまうところだった。
「遥、絶対に死んだりしないでよね。僕、友達と遊びに行ったりする夢もあるんだから」
「死なないよ。大事な恋人と、友達が、居るんだから」
遥の返事に夏樹はにこっと笑った。
とても綺麗な笑顔に、遥の心が癒される。
二階堂悟は最低な人間だったけど……夏樹との縁を結んだのが悟なのだから、生きていると本当に何があるか分からない。
連絡先の交換もして、遥は夏樹の部屋を出た。
最初に通された客間に戻ると、山根と東と佐山が三人で話をしていた。
「尾崎君、話は終わりましたか?」
「はい。あの、誠吾さんは……?」
「こちらの若頭と庭にいます。そろそろボスに声を掛けて失礼しましょうか」
そう返事をしながら、山根は遥の表情が随分明るくなっていることに気付いた。
目が少し赤いので、泣いたのかもしれないが、思い詰めたような悲しい顔を今はしていない。
ああ、この訪問は間違いではなかった…。
山根は胸を撫で下ろす。
今日ここに来たのは一種の賭けだった。
会ったこともない人物に、果たして遥の心を救えるのか……。だが、何もしないよりはいい。
誠吾も山根も東も、そう思って今日ここにやって来たのだ。
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