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学校から近い距離にあるそのカフェは、通りから少し入った場所にあり、落ち着いたいい雰囲気の店だった。
「こんな場所にこんな素敵なカフェがあるなんて知りませんでした」
「ここら一帯はうちのシマだからな」
「あら。黒川の若様。いっしゃいませ」
店の奥から綺麗な女の人が顔を出した。長い黒髪を後ろで一つに束ねて化粧っ気もないのに、凄く綺麗だなと遥は見蕩れてしまった。
「今日は随分可愛らしい方を連れてらっしゃるのね。こちらはどなたです?」
「俺の恋人だ。可愛いだろ?」
誠吾は得意げに言うと遥の肩をそっと抱いた。
「あら、若様にこんな素敵な方がいらっしゃるなんて知りませんでしたわ。道理で若様のことを誰が口説いても、口説き落とせない筈ですわね」
女店主はころころと笑うと席に案内してくれた。メニューを渡し、注文の時は呼んでくれるようお願いをして女店主が傍から離れると、遥はほぅ…と小さく息を吐いた。
「綺麗な方ですね……」
「冴子か?まあ……顔はいい方なんじゃないか?」
誠吾は全く興味が無さそうだ。
だが、遥の胸はざわついていた。
あんな綺麗な人と普段から接していて、誠吾の心が自分から離れていったらどうしようかと不安になったのだ。
そもそも、誠吾ほどのいい男が自分と付き合っているのが未だに信じられないのだから。
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