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にこにこ笑って今が幸せという遥の言葉に嘘はなさそうだ。
だが、学校に行ってはみたかったという遥の言葉が引っかかる。
いつも遥には尽くしてもらってばかりなのだ。
「なあ、今からでも遅くないから高校に行ってみたらどうだ?」
「へ?いや、僕もう18歳になりましたし…。黒川の家の仕事も楽しいですし」
誠吾の言葉に遥は驚いて顔の前でぶんぶんと手を振る。
「普通の高校じゃなくてもさ、定時制なら夜だけ通えばいいし……」
「定時制高校、ですか?」
もう一度学校に行けるなど考えたこともなかった。
定時制で夜だけなら、昼間は黒川組での家事をこなしても高校に通うことができるのではないのだろうか?
「無理ですよ。貯金がそんなにないです」
「普段うちで働いてもらってるんだ。学費くらい出させろよ」
誠吾は遥の隣に座ってその手を取った。
自分の手よりもだいぶ小さな遥の手を優しく包み込む。
「勉強したいんだろ?丁度うちのシマの中に高校があるから、あそこに行って勉強してこいよ」
「そんな贅沢なこと……いいんでしょうか?」
高校に行ってみたい気持ちと、誠吾にこれ以上甘えてもいいのかという不安で遥の心は揺れていた。
「後で後悔するくらいなら、今やりたい事をやっておいた方がいい」
「誠吾さん……ありがとうございます」
誠吾に背中を押されて、遥は春からの高校入学を目指して受験勉強をすることになった。
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