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その日誠吾はなかなか部屋に戻って来なかった。遥は様子を見に行きたかったが、我慢して勉強をしながら誠吾を待っていた。
深夜になって誠吾は疲れた顔をして部屋に戻って来ると、遥がまだ起きていたことに驚いた。
「起きて待っててくれたのか?寝ていてよかったのに……ごめんな」
「お疲れ様です。大丈夫ですか?」
心配そうに自分を見上げる遥を、誠吾はぎゅっと抱き締めた。
遥だけは何としても悟から守らなくてはならない。
「遥……ちょっと、ヤバいんだ。もしかしたらお前も狙われるかもしれない…」
「誰にですか?」
相手が誰か尋ねる遥に、誠吾は本当のことが言えなかった。
悟に銃で撃たれた時の事を思い出させたくなかったのだ。
「……商売敵みたいなもんだ。危ないから、青山から絶対離れんなよ」
「はい。気をつけますね」
誠吾が不安そうな顔をしているので、遥は自分からも腕を誠吾の背中に回してぎゅっと抱きついた。
誠吾がこんな顔をするなんて、余程のことがあったに違いない。
「誠吾さんも、気を付けてくださいね」
「ああ。あんな奴にやられてたまるもんか」
あんな奴が誰のことか分からなかったが、遥は黙って誠吾の胸に顔を埋めた。
穏やかな日々が続いていたので忘れかけていたが、誠吾の仕事は危険なものなのだ。
この幸せが脅かされるような恐怖心に、誠吾に抱きしめられていても遥はその夜なかなか眠れなかった。
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