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眠れなくても朝は来る。
遥がいつも通りに台所で朝食の支度をしていると、やはり疲れた顔をした山根が台所に顔を出した。
「尾崎君、早いですね。お水を一杯もらえますか?」
「山根さんおはようございます。はい、どうぞ」
山根は手渡された水を一気に飲み干すと大きく息を吐いた。
「大丈夫ですか?昨夜は遅かったみたいですけど……」
「ちょっとゴタゴタしてまして…。ボスから何か聞いていますか?」
「商売敵と揉めていて、僕も危ないかもって聞きました」
誠吾が遥には二階堂悟の名前は出していないのだと山根は理解した。
ならば自分も言うわけにはいかない。
「ええ……。ちょっと面倒な相手と喧嘩になるかもしれないので。尾崎君も身辺には十分気を付けてくださいね」
山根はそう言うと、遥の頭を撫でてから台所を出て行った。
ヤクザの喧嘩って……銃で撃ち合ったりするのだろうか。
遥は無意識のうちに腰の傷跡をぎゅっと押さえていた。もう、撃たれたり薬を使われたりするのは嫌だ…。
自分だけではない。
黒川の皆があんな目に遭わされたらどうしようかと、不安で胸がざわざわと騒ぎ始める。
「姐さん、おはようございます……って、姐さん顔が真っ青ですよ!」
台所に顔を出した組員が、慌てて遥に駆け寄った。
「ごめんなさい…。大丈夫です」
遥は頑張って笑顔を作ると、朝食の支度の続きを始めた。
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