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「処置は終わりました。傷口は大きかったですが全部縫えました。出血が多くて貧血になっているので輸血を行っています」
「良かった……………」
誠吾が安堵の声を漏らした時、医師は表情を曇らせて言いづらそうに言葉を続けた。
「ただですね、舌の傷はかなり深くて……もしかしたら、話したり食べたりするのは、今まで通りにはいかないかもしれません」
「は………?あ、ああ、暫くってことですよね?」
心臓がどきどきと早鐘を打つ。
話せなくなるかもしれないだと?
食べるのも?
「リハビリで少しずつ良くなるとは思いますが……。気長に頑張りましょう」
病室で遥は眠っていた。
輸血のおかげか顔色は病院に運ばれた時よりかなり改善している。
普通にただ眠っているだけに見えた。
「遥………」
誠吾は遥の柔らかい髪をそっと撫でる。
後遺症など、ないかもしれない。
目覚めたらいつものように笑って『誠吾さん』と、俺の名前を呼んでくれるはずだ。
遥ばかりがこんな酷い目に遭っていい筈がない。きっと……きっと大丈夫だ。
ここは……どこだろう。
遥は重い瞼を開けて真っ白な天井を見上げた。
僕、点滴してるし病院……だ。
そうか……。
生きてたんだ………。
右手に温もりを感じる。
誠吾の大きな手が遥の手を包み込んでいた。
誠吾は遥の手を握りながら、ベッドに突っ伏して眠っている。
あれから一体どのくらいの時間が経ったのか。
島村と山田の安否も気になる。
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