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「や行はまだ難しいんだよな」
誠吾がそう言って遥の頭を撫でると、遥は恥ずかしそうに頷いて小さく笑った。
『次までにちゃんとお名前呼べるように練習しておきますね』
さらさらとホワイトボードに書かれたメッセージを見て、青山は遥に向かって深く頭を下げた。
「姐さん、本当に申し訳ありませんでした。俺がついていながら…また姐さんにお怪我をさせることになってしまって……」
「青山、おい、頭を上げろよ」
誠吾が青山の肩をポンポンと叩くが、青山は頭を上げることができない。
自分のせいで、遥の当たり前を奪ってしまったのだと思い知ってしまったのだ。
「涼太、ほら、遥が困った顔してるぞ」
「でも……俺のせいで姐さんが……」
『青山さんのせいじゃないですよ。僕が青山さんに嘘をついてあの人のところまでいったんです』
「でも……怪我だって……」
『怪我も自分でやったことです。全部僕の責任ですから気にしないでくださいね』
遥はホワイトボードにさらさらとメッセージを書くと、青山に向かってにこにこ微笑んだ。
あの時は自分が死ぬのが最良の策だと思ったが、自分には心配してくれる人が沢山いる。
死ななくてよかったな。
もし死んでいたら、青山さんは一生僕のせいで後悔したかもしれない。
自分は怪我をしたけれど、他の人は大怪我をしたり死んだりしないで済んだ。
良かったな……遥はそう思う。
体の回復と共に、持ち前のポジティブ思考からそう思えるようになっていた。
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