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「勉強は、します。知らないことを、知るのは、楽しい、ですから」
俯いていた顔を上げて遥は山根に向かって精一杯笑ってみせた。
「尾崎君は……聞き分けが良すぎますね。まだ未成年なのだから、もっと我儘を言ってもいいのに…」
「ここに、居られるだけで、幸せ、です」
ゆっくりと言葉を話す遥の頭を山根はそっと撫でた。
同い年くらいの子どもは、もっと楽しく自由に生きているだろうに。学校に通いたいというささやかな望みさえ、諦めようとしている遥が不憫で堪らなかった。
遥を見舞った山根が、そのまま事務所に向かうと誠吾が溜まった書類に目を通して印鑑を押していた。
「尾崎君の様子をみてきました。だいぶ言葉がスムーズに出るようになりましたね」
「だろ?遥、ものすごく頑張っててさ、この前もリハビリの先生に褒められたんだぜ」
誠吾が嬉しそうに自慢する。
遥の努力を知っているので、その成果を認められるのはとても嬉しいのだ。
「高校には、もう戻さないのですか?」
「戻っても欠席が続いたから留年だろ?それに……悟も捕まってないから、心配で通わせたくねぇなぁ…」
「それは……尾崎君の意思ではなくてボスの意思ですよね…」
山根にそう言われて誠吾は言葉に詰まってしまった。
そうだ。遥を二度と危ない目に遭わせたくない。このまま家にずっと居て欲しい…。
それが自分のエゴだということは分かってはいるのだ。
だが、学校に遥をもう一度通わせる気にはなれなかった。
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