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第1夜
4月は誰しも新生活への期待と新しい出会いに浮き足立っている。
ここ、関東でもそこそこの勢力を誇る黒川組でもそれは例外ではなかった。
「誠吾さん、僕、変じゃないですか?」
黒川組の若頭である黒川誠吾の恋人の尾崎遥は、真新しいシャツに普段着ないジャケットを羽織って居心地が悪そうに誠吾に尋ねた。
「凄く可愛いよ。そんな可愛い格好で行くのか?」
「きちんとしてないとダメかなって」
恥ずかしそうに言う遥はとても可愛らしく、正直に言えば外に出したくはなかった。
だがしかし、今日は遥が楽しみにしていた大切な日だ。
「失礼します。姐さん、お支度できましたか?」
誠吾と遥の元に、組員であり組長の正蔵の恋人である青山がひょいと顔を出した。
「あ、若頭、お疲れ様です」
「青山………お前はその服装で行くのか?」
青山は長身に光沢のある黒のスーツをビシッと着こなしており、頬の傷もあってどうにもこうにも極道にしか見えない。
遥のボディガードとしてはこれでいいのだが、今から行く場所を考えると相応しいとは思えなかった。
「いや、きちんとしてないとダメかと思いまして……」
遥と同じ理由でそのスーツを選んだのだろうが……。
「お前はもう少しラフな服装に着替えて来い。お前と遥が一緒に居たら、遥がヤクザに捕まってるみたいに見えるだろうが」
「あ、はい!」
青山は慌てて部屋に着替えに戻った。
先行き不安だ……。
青山に遥を託して大丈夫なのだろうかと誠吾は大きな溜め息をついた。
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