流れ星みつけた

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 午後八時。  カーンという鐘の音が、静かな夜にひびきわたりました。  アルプスの山間、サヴォア地方ブールジェ湖のほとりの修道院の中に、ひっそりとその学校はありました。  中世に造られた石造りの修道院は、石垣に囲まれており、農園、納屋、礼拝堂、寄宿舎といった建物の中の一つに学校として使われている部屋がありました。  修道院の建物の右はしには高い塔があり、鐘が下がっています。  その学校は町の地図にものっていなければ、紹介のパンフレットもありません。なぜなら、その学校は世界中の大使や外交官の子供たちの集まった学校で、子供たちを危険から守るために世間には知られないようにしていたからです。  そんな学校にアンナは入学しました。  アンナは、肩までの黒色の髪に、黒い瞳の七歳の女の子です。  アンナは毎日、家が恋しくてたまりませんでした。学校は修道院の中ということもあり、とても規則がきびしくて好きになれません。  生徒はひとつの教室にさまざまな国の子供が二十人くらいいるのですが、学校では修道院の伝統を引きつぎ、友達とおしゃべりすることが禁止されていたのです。  おまけに子供たちは教室ではいつも見張られています。教室には勉強を教えてくれる先生のシスター・ヨハンナの他に、茶色いローブを着た男の人がいて、彼はガシールというのですが、生徒同士が勝手におしゃべりしないか目を光らせているのです。  ある夏の日の夜、アンナはなかなか寝つけず、夜の風を入れようと部屋の窓を開けました。涼しい風が部屋に流れ込み、遠くに湖が光ってみえます。  アンナは窓に頬杖をつき、空いっぱいの星を見上げました。青白い星や紫色の星、赤い星が無数に散らばり、美しく輝いています。  うっとりと眺めていると、その中の星のひとつがシューッと落っこちていきました。流れ星は音もなく、長い光の尾を引いてすぐに消えてしまいました。 「わあ、きれい……!」  アンナは思わずつぶやきました。するとかすかに人の話し声が聞こえた気がして、アンナは耳をすましました。 「あ、また流れた」  女の子の声でした。 「これで三つ目だ。今日はお月さまが明るくないからよく見えるんだよ」  こんどは男の子の声です。  アンナの部屋のななめ上あたりからでした。そして何を言ったかは聞きとれませんでしたが、もうひとり男の子の声がします。  しばらく小声でのおしゃべりが続いたあと、午後八時の塔の鐘がひびき、 「もうおやすみの時間ね。守衛さんの見回りが来るわ。それじゃあ、また明日ね」    と言ってそれから声は聞こえなくなりました。アンナはしばらくあっけにとられたあと、あわてて窓を閉め、ベッドにもぐりこみました。やがて守衛の足音が聞こえてきました。
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