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この学校に入学して早三年、何となくで過ごしてきたらなぜか親衛隊が出来てしまった。
俺は渡辺。俗にいうセレブ王道ホモ学園のしがない風紀委員だ。
そして同級生の誰にも打ち明けたことはないが、男同士の恋愛――いわゆるボーイズラブに心血を注ぐ、この道10年の腐男子である。人前では涼しい顔で風紀の業務をこなし、1人の時は支部で推しカプの小説を読み散らかしている、そんなクソみたいな二足の草鞋を履きこなす男だ。
だがしかし、この学校は萌えの需要と供給が出来ていない。
――俺にも親衛隊が出来るくらいには。目の保養が足りん。さっさと美少年来い。
「いっそのことアンタでもいいから総受けになってくれ」
「うん?しゅーくんお疲れ~~」
「アンタならできる。いけるって、な?」
「えっこわい、話聞いてるー??」
この目の前にいる男は中条司。チャラ男会計(仮)
こいつ見た目や言動がチャラチャラしているので誤解されやすいが中身がピュアピュアな真面目くんだ。可愛いからいけるって
そう、現実は王道設定とすべて合致しているわけではない。
生徒会と親衛隊の仲は良好だし、風紀が動くことはほとんどといっていいほどない。
「んで、アンタがくんのって久しぶり?…なんかあったっけ」
「んー、じつは転校生がね…」
瓶底メガネにモジャモジャ頭という奇天烈なビジュアルにも関わらず、同室者の一匹狼タイプの不良と、爽やか系クラスメイトを懐柔しているという。親衛隊がそろそろ動くから気をつけてほしいとのこと。
それを聞いた瞬間、俺は人目も憚らず渾身のガッツポーズをきめていた。
「しゅーくん?どーしたの」
「ごめん、なんでもない。で?」
急にガッツポーズを決めた俺を、中条が心配そうに見上げる。
見れば、委員長の加賀山も顔をあげて俺を見ている。俺はよほどの奇行を働いたのだろうか。そういえば忘れていたが、ここは風紀室、そして今の俺は風紀副委員長だ。
本当は今すぐ転校生を調べたいところだが、それは寮に帰ってからにしよう。
そう決意して会話を再開しようとすると、「お疲れさん」と風紀の榊が風紀室にやって来た。
「あぁ、お疲れ榊」
「え、僕に仕事押し付けておいてそれだけなんすか?」
「お前の仕事だろばか」
「ご褒美ください」と語尾にハートが付きそうな勢いで飛びついてくる榊を適当にあしらいつつ、中条の方に視線を向ける。
「え、おれなんかついてる?」
「いや別に」
「んー……???」
中条はペタペタと頬を触り始めた。可愛いなこいつ。
「なんとなく見てただけ」
「……しゅーくん、おれのこと好きなの?」
きゃ、と照れたふりをして茶化す中条の顔はほんのりと赤かった。かわいい奴め。早く転校生と絡んでくれ。クソみたいなことを考えながらも、可愛い後輩の姿を微笑ましく見つめていると、加賀山が咳払いをした。
「渡辺、仕事。中条もそろそろ戻る」
「お~こわ」
「はあい」
「……委員長、宗先輩今日やばくないっすか?ずっとニヤニヤしてるし」
そう? と首を傾げると、榊だけではなく加賀山も頷いていた。そんなにか
「まあ、普段からたまに変だけど…………さっきは急にガッツポーズするし」
それは申し訳ない。てか忘れろよ、恥ずかしいわ。
居た堪れない物を見せてごめんな……そしてこれからもっと気持ち悪いものを見せていくことになるだろう、そのことも重ねて謝罪したい。
なんせ王道がリアルで見れるかもしれないから嫌でもテンションが高くなるんだわ。気持ち悪いオタクでごめんな。
「……体調悪いなら休んで。倒れられる方が困る」
ぼそり、と加賀山が呟いた。わかりにくいようでわかりやすすぎるデレについ笑ってしまう。するとむっとした顔をするので、「大丈夫、ありがとう」と言うと、「ならいいけど、」とそっぽを向いた。
まあ確かにガッツポーズは異常かもしれないので、今度から心の内に留めよう。
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