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瞳にうつったのは、彼女の驚いた目だった。
東京に就職するために地元の自宅を片付けていたある春のこと。
「だれだこれ……」
引き出しの奥から出てきたのは1枚の写真だった。
大学の友達と撮ったプリクラ。1年生のころのものか。
懐かしい。これに写っている友達とは結局就職で離ればなれになってしまう。
仲良しの5人で取ったプリクラ。私はその中にいる真ん中に写っている1人の人物に目が留まった。黒髪でボブの女の子。あかぬけていないすっぴん姿は、田舎者感が全く隠せていなくて見苦しいと思った。
見覚えがなかった。しかし、一緒にプリクラをとったのなら、仲は良かったのだろう。
「ねぇ、この子誰か知ってる?」
台所にいた母親に聞いた。
母とは仲がよく、いつも友達のことを写真を見せて話していた。
だから友達の顔はだいたい覚えていたし、親友の美穂が前髪を切っただけでも、
「美穂ちゃん髪切ったの?かわいいねぇ」と写真を見ただけでわかってしまう。
そんな母は、プリクラを見た瞬間、私の顔をじっと見て、
「何言ってるのあんた、冗談もいいかげんにしなさいよ」
ちょっと怒った声で言った。
何が何だかよくわからないまま、ごめんなさいと呟いて、私は家を出た。
今から彼氏の太一と会う予定だった。
太一は学部は違うが同じ大学の同級生なので、もしかしたら知っているかもしれない。
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