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昨日の台風の影響で、海は怒り気味。
生温い潮風が、Tシャツの袖から出ている肌にねっとりとつく。少し不快だ。
「渡したいものって、なあに?」
人生で最高の笑顔でタケを見つめる。
でも、堤防の上の街灯の明かりだけでは薄暗くて、私の顔なんて大して見えてないんだろうなあ。タケの表情も見えないもん。残念。
私とタケの距離は2mくらい。
足下はズボズボと足の埋まる砂。
ビーチサンダルで来ちゃったし、帰ったらまたお風呂に入らなくちゃ。
空には星も月もない。
タケは大きく息をついて、何かを諦めたような声で一言放った。
「今までありがとう、ミツ」
途端、タケは後ろ手に隠していたナイフを露わにして腰あたりで構えると、私に刃先を向け、砂に足を取られながらも力強く前進してきた。
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