逃げられない

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「そ、外は危険だ。常に奴が俺を狙っている」  俺は次の日から会社に行けなくなってしまった。それどころか、玄関から一歩も外に踏み出すことすらできず、食事はデリバリーに頼り、ゴミが部屋のあちこちにたまり始めた。  部屋にいれば安全、俺はそう思い込んでいたがそれでもなお刺客は襲ってきた。  それはいつものようにデリバリーピザで腹を満たしているときだ。しっかりピザを咀嚼し、良いタイミングで嚥下すると、その瞬間喉に何かがつっかえる感覚が起こった。始めは不思議に思い、喉元を拳で叩いていると、徐々に息ができなくなる事に気が付いた。  やばいやばい!声も出せずにひたすらもがいていると、意識が朦朧としてきた。  思考が遠のく中、俺は力を振り絞り大きく咳払いをした。すると何かが喉から上がってくる感覚に気が付いたので、吐き出す勢いで咳払いを続けた。そして舌の奥あたりに何かが差し掛かったところで、俺は手を突っ込んだ。  それを掴み、口の中から引きずりだしていると、それの正体が分かった。  黒く長い、幾重にも絡まり束ねられた髪の毛だった。 「あが、がっ!」  声にならない叫びを上げるが、懸命に髪の毛を引きずり出す。  全て引きずり出せたときにはすでに三〇センチ程度に達し、女性の髪の毛である事が理解できた。しかも中心で大きな球を織りなしており、おそらくこれが喉を塞いでいたのだろう。  呼吸困難から解放され、肺に取り損ねた酸素を取り込もうと大きく深呼吸をする。 「なんで、こんな物が出てきたんだ」  生と死の堺を切り抜けた安心感を置いて、一気に恐怖が勝った。 「こんなもの、防ぎようがないだろ」  俺はそれから、食事も睡眠もまともにとることができなかった。心身ともにくすんでしまった俺はもはや廃人そのものだった。  毎回会社からの着信が朝を知らせ、俺は布団の中で目を開ける。体調不良を理由に会社を欠勤し続けた。  それからは喉に詰まりにくい栄養補助ゼリーで食事を無理矢理済ませ、極力布団から出ないようにした。  この生活をいつまで続ければいいのだろう。しかしそれからは何事もなく過ぎ三日が経った。  その日の朝もいつものように着信音が響き、俺は重たい腰を持ち上げて久しぶりにカーテンを開けて朝日を浴びた。 「そろそろ大丈夫かな」  身支度を済ませ、おそるおそる玄関の扉を開け風を肌に感じる。
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