逃げられない

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 通勤路、横切る車にひるみ鳥肌が全身を覆う。身体が硬直し、車が見えなくなるまで動けなくなった。  大通り、横行する車がもしかすると俺に襲いかかるのではないかと不安になり、早歩きでできる限り車道から離れて歩いた。  駅のホーム、ベンチに座り後ろから押される危険を回避した。  そうして神経をすり減らしながらようやく会社に辿り着く。  そして重たい足取りでオフィスに上がると、仕事をしていた全員が俺の姿を見て目を丸くしていた。俺は不思議そうに自分のデスクに行こうとすると、荷物は全てなくなっていた。  すると驚いて固まっている俺のもとに、眉間にしわを寄せた部長がやって来て、ただ一言こう言ったのだ。 「君はもうクビだ。来なくていいよ」  その瞬間、何故か俺は悲しみや怒りより安心感が勝った。  安堵の溜め息を吐くと、それを見た部長は気に食わなかったのか大声で怒鳴り散らす。 「会社に迷惑をかけておいてなんだその態度は!謝罪の一つもないのか!!」  部長が怒鳴るのも無理はない。しかし俺だって、命の危機に晒されていたんだ。仕方がないだろう!でも、誰が幽霊のせいだなんて信じるのだろう。  そのとき俺は気が付いた。あの写真は俺の首がなかったこと。俺はずっと、殺されるのかと思い込んでいたのだが、まさかクビにされるってなんだよそれ!  これもどうせ幽霊の仕業に違いない。  そう思い俺はポツリと一言。 「くっだらねー」  と呟いた。  そのときの部長の鬼の形相ときたらこれまた滑稽に感じたものだ。なんとも呆気ない結末なのだろう。  しかし、幽霊に殺されることなく済んで安心した。あのとき村野が送りつけてきた心霊写真を見直すと、俺の首は戻っていた。  そこでようやく、命の危機にさらされないことを確信し俺はスマートフォンを地面に捨てた。
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