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▼負けられない戦い
ついにラストロールを迎えてしまった。我が家のトイレットペーパーが。
本当にあと一個しかない。俺は毎日毎日、余分な紙を使っていたことを悔いた。
あの一巻きが残っていれば!あの一巻きいらなかったな。
思い出すと過去の俺への悔やんだ思いがどんどん自分の便とともに出て止まらない。
だが、トイレットペーパーはもうない。
俺は手を伸ばし、扉の鍵を開け、ドアを開け、遠くに居る妻に叫んだ。
「芯ってもう捨てちゃったっけ」
妻から声が返ってくる。
「昨日、ゴミで全部出したよ」
くそ……やはりもうこのラストロールを使うしかないのか。
一時はキッチンペーパーで代用しようと思った、
ティッシュペーパーやウェットティッシュを使おうかとも思った。
いろいろなことを考えていた。
しかし、それでは詰まってしまうのだ。
俺には水溶性で溶けるこのラストロールを使うしか手がない。
ただ、今夜のロールはどうする?
俺は基本的に一日二回はする派だ。起きたときと寝る前。非常に快便で知られているこの俺が、今日を凌ぐすべはあるのか。
そして自分だけではない。妻もいる、子供もいる。
そんな状態で俺がこのラストロールを独占するわけにはいかない。
そのとき、ドアのチャイムが鳴った。
―――ピンポーン
妻が何やら誰かと会話しているようだった。
その相手は隣に住む小松さんだったようだ。
小松さんは一人暮らし。トイレットペーパーはそんなに使っていないだろう。
俺はトイレの中から叫んだ。
「小松さん!トイレットペーパー余ってませんか?」
小松さんから聞いた答えは思いがけない言葉だった。
「紙ヤスリならありますよ!」
紙ヤスリ、
それで尻は拭けないんだなぁ。
としを[と]
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