カテリーナの告白

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 『いらっしゃっていたのですね。またお会いしたいと思っていました。あの時のお怪我はもうだいぶいいですか』  言うまでもなく、薔薇のとげで傷つけた私の手のことをおっしゃっているのです。もうそのころには、傷跡はきれいに消えていました。私はそれさえ大事な印が消えていくようで、悲しく思っていたのでした。あのとき、ハンカチを汚して応急手当をしてくださったニコライ様の心が再び私をとらえました。  『ええ、あの時は、本当にありがとうございました。おかげさまでもう、すっかりですわ』  私は少し威厳を込めた物言いでお礼を申し上げました。ニコライ様の前では、本物の貴婦人でありたかったのです。そして、何か気の利いた、ニコライ様の心をとらえる、一人前の女性としての知性を披露したいと切に願いました。けれど、気は逸りながらも、私の心臓は早鐘のように打って、足は情けないことにがくがくと震えているのです。  ニコライ様はそんな私の思いを知ってか知らずか、親しみのこもった目を向けています。  『お会いしたいと思っていた』……先ほどの言葉が、頭の中を駆け巡っていました。それは、どういう意味なのでしょうか。  しかし、彼はこう続けられました。  『うちの小さな、セルゲイをかわいがってくれてありがとう』
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