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「できれば、そのお手紙を拝見したいくらいですね」
「でも、手紙はもうないんですの」
カテリーナは答えた。
「私は、ニコライ様とは親しくお話をしたこともありません。それでも、この方以外に私の伴侶はいないと固く信じていました。今でもそうです。あの方を殺してしまった今、私は他の誰とも縁を結ぶ気はありません。ずっとずっと、この想いを胸に抱いて、生きてきたのです。それだけで私は幸せでした」
「殺してしまったというのは、どうやって?」
「それは……」
カテリーナは言いよどんだ。遠い目をして、やがて苦し気に美しい顔を歪ませた。
「刺し殺したんですわ」
「え、何ですって?」
「私は、あの方の胸を突いて、殺してしまったのですわ。あの方がお帰りになり、馬車を降りられたときに」
セルゲイは息をつめた。その情景は、あまりに突飛なものに思われた。
「なぜ私がそうしたのか、お知りになりたいでしょう」
カテリーナは意を決したようにセルゲイを見た。
「ぜひ」
「では、お話しますわ。息子のあなた様には、聞く権利がおありなのですから」
そしてまたカテリーナは、紅茶を口に含むと、セルゲイの方にまっすぐに向き直って、語りを再開した。
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