カテリーナの告白

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 「あの方からのお返事は一切ありませんでした。私は胸が張り裂けそうな心地で毎日を過ごしていたのです。  ある日、私は母に呼び出されました。母の文机の上の白い紙を見て、そして私は『ああ!』と叫び声をあげていました。それは、まさしくあの方へ差し上げた私の手紙だったのです。怒りと驚きと絶望が一時に去来しました。母は溜息をついて、一言『もう二度と、このような真似はしないように』と言い渡しました。そして、目の前でびりびりと破り捨て、暖炉の火にくべてしまったのです。そして、呆れたように、このころの母の口癖であった『お父様が生きていらしたら』という言葉をつぶやき、それきり黙ってしまったのです。父を亡くして弱っていた母は、私を叱りつける気力さえ萎えてしまっていたようでした。  私は部屋を飛び出しました。  そして、こうなってはもう、死しか自分には残されていないと感じたのです。でも、私は、今後もあの方が生きて、奥様と我が子と幸せに生きていくのだということが、どうしても耐えられませんでした。  私は、暗がりの中、あの方を待ちました。そして、馬車から降りたあの方に向かって真っすぐに歩き、黙って、ナイフを突き立てたのです。あの方は、驚いたようなお顔をなされましたが、優しい笑みを浮かべられて、そして、私の額にそっと口づけをしてくださいました。  私は、その口づけではっとなり、あの方を助け起こそうとしましたが、もうあの方は息絶えてしまっていたのです。
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