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「まさか。それだけのことで?」
「そうです。恋とはそういうものではないでしょうか? けれど、いくら私が何も知らぬ少女であったとしても、この方が、すでにご家庭をお持ちになり、それは絶対にゆるがせにさせてはいけないものだということは理解しておりました。でも、こうも思ったのです。これは公平ではない、と。もしも私とあの奥さまが対等に比べられたなら、選ばれるのが私であってもおかしくはなかったはずだと。
そう思うと、なにか悔しくて悔しくて、涙があふれてきてしまいました。私はわざと、敷地の間にある白いつる薔薇の枝をとろうと腕を伸ばし、その鋭い爪で、手に掻き傷をつくってしまいました。血が、赤い血が一筋流れました。私が呆然としていると、あの方は、ようやく私に気づき、白を赤く染めた色彩に眉を顰めました。
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