カテリーナの告白

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 あなたのお母様は、私のことを好いていてくれました。あの方は、ニコライ様のお仕事が忙しいためか、どこか退屈したような雰囲気をまとっておられました。私は、彼女のよき話し相手にもなったのです。内心では、なぜ私はこの人に勝てないのか、いえ、勝てないというより、社会の、家庭のありようというだけで、この人の上に行くことが出来ないことに理不尽な怒りと悲しみを抱えながら、それでも私は奥様といろいろな話をいたしました。  それは、他面では楽しいひとときともなったのです。彼女がニコライ様のことを一言語られるだけで、私はもうドキドキしてしまって、そして、幸福感に満たされるのです。なんとも不可思議な自分の感情でございました。  奥様は、なんの疑問も抱かずに、あの方の妻でした。そして平然と退屈しておられるのです。私にはそれ自体が信じられないことでした。  私は勝手な妄想さえ抱きました。もしこの美しい奥様が、何か病を得てお亡くなりになれば、私はこの苦しみから逃れられるのです。それは恐ろしいことでした。頭ではそれを理解しながら、幸福そうに退屈している奥様を見ていると、どうしてもそういう思いが、甘い感傷の気持ちとともに、湧いてきてしまうのです」
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