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デジカメに表示される順番、つまり日付の新しい時間の場所から見て回ることにした。
一枚目の場所はスーパーの裏手だった。写真には暗い夜に街頭に照らされるお姉さんが写っている。
僕を見つけたいつものレジのおばちゃんが大きく手を振ってくる。怪しまれないように手を振り替えして、鞄の中を覗き込んだ。カメラの持ち主がどこかにいるかもしれない。周りに気を付けながら写真を見た。確かにこの場所だ。
写真が撮られたであろう場所に立って手でフレームを作ってみたけれどお姉さんが現れることはなかった。そんな当たり前のことに肩を落としてスーパーを後にする。
残りの五カ所もきっと同じだろうと思いながらも、家に帰ろうと思えないのは僕が心のどこかで期待してしまっているからかもしれない。
一カ所ずつ、同じようにしてみたけれどお姉さんは現れなかった。太陽はだんだん傾いて、西日が強くなっている。残りはカエル公園だけだった。これが一番最初に撮られたものらしい。
「いいよ、綺麗だ」
カエル公園に近づくと、うっとりとした低い声が聞こえた。
男の人が真剣な表情で、小さくて薄いカメラを構えて目を細めている。
その視線の先を見て、心臓がどくんと大きな音を立てた。
「あ……」
実物は、写真よりもずっと綺麗だった。少し肌が白すぎる気もするけれど、夕日の赤がよく映えて美しい。僕に気づいた男の人が、カメラを下ろしてこちらを向いた。芸能人みたいに顔が整っていて、作り物のようだ。
この人がお姉さんを撮っていたのか、と思う間もなく男の人が口を開いた。
「君、この辺の子?」
「え、あ、はい」
話しかけられるとは思っていなかった。上手く返事ができずにどもると、男の人は困ったように眉を下げる。
「ねえ君、この辺でカメラを見なかった? ちょうど、こんな薄さのものなんだけど」
男の人が僕に見せたのは、僕が拾ったカメラと同じ大きさをした木の板だった。お姉さんを撮っているように見えたものは、カメラではなくこれだったらしい。
じゃあ一体、この人は何をしていたのだろう。
不気味さを感じ、思わず首を振ってお姉さんの方を見ると、彼女は何も言わず美しいまま微笑んでいた。
「そうか、ここを撮ったらあと五枚、撮らなきゃ行けないんだけど」
「あ、あの、交番に行ってみたらどうですか?」
「そうだね、全部撮り終わったらそうするよ」
僕はコクコクとおもちゃみたいに頷いてから二人に背中を向けて走り出した。その板でどうやって撮るんですかとは聞けなかったし、後ろは振り返れなかった。
たしか、あのお姉さんが最後に撮られた写真は夜のスーパー裏だったと思う。しばらく走ったあと、お姉さんの写真を確認しようと鞄の中でカメラを起動した。ピピッという音がやけに耳障りだ。
カメラの中には、七枚の写真が記録されていた。
白いワンピースの綺麗なお姉さんが六枚と、夕日を背に受けて走って行く小学生の後ろ姿が一枚。
全力で走れば、日暮れまでに交番にたどり着けるだろうか。
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