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落とし物は交番に
間違いなく、カエル公園だと思う。
僕の知っているカエル公園とは少し様子が違う気もしたけれど、大きなカエルの背中を滑る滑り台は他にはないはずだし、後ろに見える校舎らしき建物も僕が通っている小学校のものだ。
夕焼けの眩しい太陽を浴びて、一人の女の人が微笑んでいる。
「誰だろう……」
カメラを拾った。小さくて薄くて、でも少し古そうなデジタルカメラだ。落とし物は交番に届けないといけないのだけれど、ちょっとした好奇心でランドセルの奥にカメラをしまった。
昼休みのトイレの個室で電源を入れると、ピピッと音がして僕は大きく咳払いをした。撮られている写真は、全部で六枚あってそのすべてがこの町内で撮られたものらしかった。
どれもすぐには思い出せないけれど見覚えがある景色だ。白いワンピースの女の人がうつっているから、持ち主はこの女の人と親しい人物だろう。
女の人の顔をよく見ようとした瞬間、ゲラゲラと嫌な笑い声がトイレに入ってきた。
「お、誰か個室にいるじゃん」
わざとらしく大声でそう言ったのは隣のクラスの塚地だろう。甲高くて少し濁った声は特徴的で、塚地と直接関わりのない僕にもわかった。元々あまり素行がいいとは言えなかった塚地の行動は六年生になってからさらにエスカレートしたと聞く。
僕は息を潜めて、カメラをポケットにしまった。お願いだから鳴ってくれるなよと祈りながら時間が経つのを待った。
「静かすぎるよなあ」
それが、仇となったらしい。クスクスと笑いながらいくつかの足音が近づいてくる。個室を上から覗かれれば、何をしていたのかと聞かれるだろう。そうしたら早く出てこいと言われてカメラのことがバレてしまうかもしれない。嫌な汗が頬を伝う。咄嗟にズボンと下着を下ろしてお腹を押さえる振りをした。
カメラのことが知られてしまうくらいならば、恥ずかしい姿を見られる方がましだ。校内で何か噂を流されたとしても、他に興味の対象が出てくればすぐに消えるはず。そう思えるくらい、このカメラは魅力的に思えたのだ。
「うわっ、きばってる!」
僕が俯いて震えていると、頭上から可愛らしい高い声が聞こえた。背が低くて細い川田だろう。塚地とは正反対で、二人はデコボココンビといわれていた。誰だかバレるのが怖くて塚地が川田を肩車したのであろうことは安易に想像できた。
「きったね! いこうぜ!」
ぎゃははと下品な笑い方をした川田が塚地の上から飛び降りる音がして、走ってトイレから出て行った。誰だか特定されなくて良かったと安堵する間もなく、開始のチャイムが鳴った。
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