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写真の場所の特定は、そう難しくなかった。
地図を引っ張り出して、印を付けていく。低学年の頃にした冒険を思い出して自然と胸が高鳴った。写真の場所はすべて僕の小学校の付近だった。お父さんの部屋のコピー機を使って、地図を何枚も印刷する。
「えっと、こうかな……?」
漫画の世界なら、この点と点を結べば何かの模様や魔法の円なんかが浮かんでくるのだろう。そこで僕は世紀の発見をしてしまうのだ。組織から追われてしまうかもしれない。
そんな風に考えながら何枚も地図に線を書いてみたけれど、結局模様なんて見えなかった。高学年にもなって夢を見る方が馬鹿げている。そんな、僕を罵倒する塚地の声が脳内で再生された。
カメラを拾ったときは学校の誰も知らないような冒険が待っているような気がしていたのに、それは僕の大きな思い違いだったらしい。
となると、このカメラは本当にただの落とし物ということになる。交番に行かずに落とし物の中身を覗いているなんて、僕は泥棒ということになってしまわないだろうか。
不安を覚えながら点だけを書いた地図と写真を見比べる。
「綺麗な人だなあ……」
僕の周りにいる年上の女の人といえば、お母さんやスーパーのおばちゃん、それから先生と友達のお姉ちゃんなのだけれど、写真の女の人はその誰とも似つかない独特の雰囲気を持っていた。
白という色はまるで彼女のために作られたのではないかと思うほどだ。クラスで人気の女子が着る給食着も白だけれど、こんなに美しくはならない。お姉さんを見れば見るほど、このカメラを交番に届けるのが悔しく思えてくる。
なんだか、無性にイラついた。苛立ちがもやもやに変わって、胸の底に降り積もっていくようだ。今まで生きてきてこんな感覚になったことはない。
「よし!」
冒険らしい冒険はないかもしれない。けれど、少しわくわくするくらい許されてもいいのではないだろうか。
点だけを書いた地図とカメラを鞄に入れて家を飛び出した。時間がないわけではない。けれども早く写真の場所を見たかった。もしかするとお姉さんがカメラを探しに来ているかもしれない。写真を撮った男と一緒の可能性もあるけれど。
「いや、男じゃないかもしれない」
あまり独り言が激しいタイプではないはずだが、なぜだか今日は思ったことがどんどん口から出てきた。胸の中にあるもやもやのようなものを吐き出すために口を開けてしまうのかもしれない。
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