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 見渡す限り、草木の生えない枯れた大地が続く。時折、アパートを振り返ったが、やがて視認出来なくなった。  天を仰げば、厚く霞んだ灰色の空間が広がり、太陽は見えない。光量が少ないのだろう。その証拠に足下に影がない。  まずいな。これじゃ、方向を確かめられない。  額から一筋汗が滴って、手の甲で拭う。若干明度が低くなってきたみたいだ。日が傾いてきたのだろうか。汗に焦りが混じる。  最初の人工物、最初の植物――この果てしない平坦な大地に、些細でも何か変化を見つけたい。そしたら、アパートへ帰ろう……と思い始めた頃、それは起こった。  ――ゴンッ、ガンッ……ドサッ 「痛っ!」  一瞬、何が起きたのか分からなかった。左手と額と鼻と、腰が痛い。地面に尻餅を付いた格好で、何も――全く変哲のない、目の前に広がる大地を眺める。  身を起こし、おずおずと右手を伸ばす。  ――コツ  中指の先が、何かに触れる。温度の無い、透明で固い――。 「か、壁?」  パントマイムの演目に、「透明な壁」というのがある。何もない空中に両掌をピタリと当ててスライドし、あたかも本当の壁があるかのように演じるのだ。  あたかも、ではない。本当に、目に見えない壁がある。  壁に触れながら立ち上がり、大きさを確かめる。足下の地面から伸びる壁は、腕を一杯に伸ばした先より、まだ高く続いているようだ。  右に掌をずらしていく。辺りの景色が徐々に暮れていく変化を眺めながら、必死で壁の終わりを探す。暑さを理由としない汗が吹き出し、首筋や背中を伝った。  もう辺りは、完全に暮れている。どんどん視界の明度が下がり、迫り来る夜の中、背中にゾワゾワと得体の知れない恐怖を感じる。囚われまいと、逃れようと、狂ったように右方向に、壁と併走した。
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