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「……カタ、さん。ナカタさん」  聞き覚えのあるような……可愛らしいソプラノボイスが、僕の名を呼ぶ。 「起きてください、ナカタさん!」 「えっ?!」  驚いて目を覚ますと――。 「うわわわっ? レ、レイナちゃん?!」  憧れのアイドル、レイナちゃんが、正面から覗き込んでいる。明るい茶髪は、ツインテール。大きな瞳にツンと小ぶりの鼻、色っぽいプルプルの唇に、チャームポイントの口元のホクロ。  生きていたのか、彼女も?  だけど、どうして僕の名前を――? 「ナカタさん。私は、案内人(ガイド)です」  魅力的な瞳に至近距離で捉えられて、息が詰まる。けれども、彼女の愛らしい唇から紡がれる単語は、僕の理解の範疇を超えている。 「ガイド……?」 「はい。この姿は、貴方の記憶からお借りしています」 「借りて――じゃ、本物のレイナちゃんじゃないのか」  落胆する一方で、得体のしれない存在の出現に緊張が走る。 「ナカタさん。この場所が、貴方の知る地球ではないことには、気が付きましたか?」 「う……薄々は」  つい見栄を張って、頷いた。 「では――見てください」  促されて立ち上がり、闇に馴染んだ壁を眺める。  彼女は頷くと、サッと両手を上げ、左右に広げた。透明な壁の一部がスクリーンになり、見慣れた青い星を映し出した。 「地球? あ、あれは!」  まるで映画を見せられているようだ。地球の奥に灰色の月があり、更にその奥から一直線に彗星が近付いてくる。 「あ……嘘だろ、や、止めろぉっ!」  弾丸のような彗星は、短く尾を引きながら月に衝突した。次の瞬間、宇宙空間に大量の岩石が放射状に飛び散った。大きく軌道を外れた月は、衝撃波に砕かれながら、幾つかの塊へと瓦解して、次々に地球へ落下する。 「あぁ……そんな」  身体中から力が抜け、ガクリとその場に崩れた。降り注ぐ月の欠片は、大気圏で燃え尽きるには大き過ぎて――地球上のあらゆる場所が蜂の巣の如く被弾する。海の色が赤茶色に濁っていく。血飛沫のように噴き上げた破片が、みるみる地表を覆い隠した。  こんな惨劇に、僕達は見舞われたのか……。
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