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「何故、泣くのですか」
ぼたぼたと、声も無く涙が溢れていた。レイナちゃんは、そんな僕を不思議そうに観察している。この瞬間、彼女が人間とは異質の存在なのだと腑に落ちた。
「何故? 地球が――人類が滅んだんだぞ!」
スクリーンを指差して、睨みつける。それでも、彼女は無表情で小首を傾げた。
「これは、単なる実験の終了です。貴方達が『地球』と呼ぶ星は、我々の実験フィールドの名称です」
「じ、実験?」
「期待する成果は、まだ得られていませんが」
彼女は苦笑いを浮かべた。
「僕を、どうするつもりだ。文字を……地球の文明を奪っておいて」
100億に迫る人類も、世界各地で花開いた多様な文明も、彼女らには無価値なのか。
「文字? それは弊害です。無用な結託を生みますから」
「どういうことだ」
「ナカタさん。貴方達が、地球文明を1から築き上げたと、本当にお思いなのですか?」
ガラス玉みたいな瞳が、見下ろしている。
「これまでの地球文明は、余すところなく我々のデータベースに保管されています。新たな実験開始時には、我々が必要なデータを与えるのです」
踏みしめていた土台が、足元から崩れていく感覚に襲われる。グラグラと目眩がした。
「ここでは、次の実験に投入する継承者を選定しています。私は、貴方が適格か否か判定されるまでのガイドです」
「不適格だったら――どうなるんだ?」
「初期化したのち、標準データをインストールします」
「それじゃ、僕の記憶や人格は」
「心配ありません。我々が必要なデータは、既にプールしてありますから」
レイナちゃんはニッコリと笑った。ゾッとするほど可愛らしい表情で。
「我々って、お前ら何なんだっ! 神のつもりなのか!」
「神? それも我々の与えたデータの1つに過ぎませんが?」
恐怖と憤りが渾然一体となり、衝き上げるように咆哮した。
「ふっざけるなああぁっ!!」
気が付くと、飛び掛かっていた。けれども、彼女の身体を通り抜けた僕は、無様に転がった。
「ここまで。強制終了します」
無機質な音声が流れた。
黄土色の地面に貼り付けられたまま、意識が夜空の闇に侵食されていく。
無関心な双眸が、僕を捉えている。せめて蔑まれたのなら、まだ救われたのに――。
【了】
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