ー 20XX年 宇宙からの旅 ー

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 にわか彗星フィーバーに、世界が浮かれていた、5月。  アメリカのある学者が、予測計算式の不備を指摘した。彼が弾き出した結論では、新彗星は月の裏側に落下する可能性が高い――とされた。  楽観ムードは急転し、地球への影響が緊急検討された。 『我々人類は、善き隣人であり、最も身近な友人である月の背中に、新しい虫刺され(・・・・)を発見するかもしれない』  数週間後、彼の国の大統領が安全宣言を発表した。  仮に月に落下した場合、新しいクレーターが形成されるが、地球に支障はない。改めて、安全性が強調されたのである。  新彗星フィーバーが、再燃した。  だから――。  僕も、映画サークルの仲間達と彗星を見に行こうなんて計画を立てたのだ。まだ就活には早い、大学2年の夏休み。実家近くの海岸は遊泳禁止区域だけど、降るような星空が観られる穴場だ。きっと彗星もクリアに眺められるだろう。  8月19日、快晴――。  僕を含む男女10人が、車3台に分かれて乗り込み、海岸を目指した。飲食物をコンビニで買い込むと、狭い砂浜に簡単なルーフ付きのテントを立てた。  夕方まで波打ち際で遊んだ後、缶チューハイ片手に花火をしたりして、その時を待った。 「星、キレーだねぇ!」 「あー、流れ星」 「おい、寝るなよぉ」 「スマホのアラーム仕掛けておこうよ」 「3時でいいよね?」 「ちゃんと起こせよー」  そんな会話を交わして、ルーフ下のシートに雑魚寝したのが、深夜23時過ぎ。  ――ピピッ、ピピッ……ピピッ、ピピッ……  誰かのスマホのアラームが鳴った。
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