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ー1ー
見慣れた空間が、目の前にある。
ベッドから身を起こした僕は、若葉色のカーテンの隙間から漏れる柔らかい光に、瞬きした。
「彗星……どうなったんだ?」
頭がぼんやりしている。シーツを捲ると、パジャマ代わりのTシャツと短パン姿。いつ着替えたのか、分からない。
暫く、ベッドの上で記憶の尻尾をたぐり寄せようとする。
浜辺で、サークルの仲間と居て――鮮やかな光が――あれは……花火、か?
記憶というよりは、イメージが断片的に転がっている。闇に発光する橙や青白い色、ざらついた砂の感触、耳奥でリフレインする――穏やかな波音。
真っ直ぐ帰って来たのだろうか。だとしたら、テントを畳んだり、誰の車に乗ったとか――当然ある筈の帰りの記憶が、まるで無い。仲間の誰かが運んでくれたとしたら、記憶を無くす程、僕は何をやらかしたんだ?
ボサボサの髪を掻きながら、違和感を覚える。
「……大体」
今、何時なんだよ。
ベッド周りを見回し、スマホを探す。
ラグマットの上のローテーブルの上に、長方形の板が見えた。
――ツッ?!
ベッドを降りて立ち上がった。途端、キンと耳鳴りがして――激しい目眩に襲われた。
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