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ー3ー
――ぐぐぅ
訳の分からない環境の中にあっても、人は腹が減るらしい。
いや、腹が減るくらいの時間が経っているということか。
手探りで部屋の照明を点ける。蛍光灯の下の空間は、確かに僕の部屋だ。玄関があって、入って右にトイレ、左にバスルーム。同じく左側には、キッチンがあり、その向かいは収納。奥のリビング部分には、ベッドのある壁際の反対に本棚やテレビ台を置き、玄関の正面にカーテンを引いたベランダがある。大して物も無く、シンプルな部屋。それでも、外の世界がよく分からない現状では、安心出来る大切な穴蔵だ。
ノソノソとキッチンに行き、冷蔵庫を開ける。食材、買ってあったかなぁ。
「……何だ、これ」
もう何度目かの困惑に、精神的疲労がボディーブローのように効いて、その場に座り込む。
冷蔵庫にビッシリ並んだ銀の袋。取り出すと、レトルトパウチっぽい袋の表面に鶏肉のイラストが付いている。別の袋には、魚の絵――ツナだろうか。
こんな保存食は、知らない。僕の冷蔵庫の中身じゃない。
とは言え、他に食糧らしき物が見当たらないので、鶏肉の袋を開封する。ゼリー飲料のように飲み口に栓があり、キャップを捻る。鼻を近付けると、フワリと芳ばしい香りが食欲をそそる。意を決して咥え――チュウと吸う。
美味い。思わず、目を見張る。
きっと一流シェフの監修に違いない。少しスパイスが香る、チキンステーキ味のドロリとした半液体。ひんやりとした口当たりは、それほど悪くない。空腹も手伝って一気に飲み干した。妙な満足感が得られ、魚の袋は冷蔵庫に戻しておいた。
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