ー 20XX年 宇宙からの旅 ー

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ー 20XX年 宇宙からの旅 ー

 新しく発見された小天体が、10ヶ月後、地球とニアミスする。  そんな衝撃的な速報がスマホの上部にポップアップ表示されたのは、3日前の深夜だった。  南米の何とかという観測所が、小さな小さな岩石を発見した。偶然、水星の軌道に重なり、長いことその存在が見落とされていたらしい。すぐに各国政府に伝えられると共に、地球内外に張り巡らせていた地球近傍天体(NEO)観測システム(ガーディアンズ・アイ)を総動員して、確認に当たった。  結論から言うと、この岩石の正体は彗星で、月の外側を通過する、と予測された。地球や月の引力の及ばない距離を駆け抜けていくそうで、人類は緊張から一転、楽観ムードに包まれた。  当初、彗星の接近をギリギリまで発見出来なかったことについて、各国の専門機関の不手際を責める声が上がった。  しかし、安全な天体ショーが楽しめると分かった途端、非難は影を潜めた。むしろ、最接近の瞬間を世紀のイベントとして迎えようと、観測ツアーを募集する企業が続出する有様だった。  幸い、わが国――日本は、気象条件さえ整えば、来年8月20日の午前3時23分から空が白むまでの1時間程、真夏の東の空で、下弦の月の側を、緩く尾を引きながら移動する姿が目視できるとのことだった。
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