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木のうろを出たハルは真っ先に里の様子を確認したが、里は雪に埋まり誰も住んではいない。移住したのか寒さに負けたのかは分からず落ち込んだが、すぐに楽園を目指したそうだ。生きる者が寒さに心折れてしまわないように、一刻も早く暖かさを取り戻さなければと考えている。
私はハルの話にじっと耳を傾けた。彼女は人間が好きで春を愛している。私とロアはハルの役目を果たそうとする強い想いに触れて、必ず楽園へ送り届けようと誓う。
準備は整い出発を待つだけとなったある日。ハルは私に頼みたいことがあるとし懐から一粒の球体を取り出した。豆粒ほどの大きさで見る角度により緑や黄金に色が変わる。それは“春の種”であり、ハルの本体でもあると教えてくれる。
「この種をリリィに食べて欲しいんです」
ハルは寒さによる消耗を抑えるために私に所有者になって欲しいと願う。食べてもハルが消えてしまうことはないらしい。
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