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私は種を観察する。今まで様々な種を見てきたがこれほど生命力に満ちる物はない。その尊さについ食べることをためらう。
なかなか手を出さない私の戸惑いに気づいたのだろう、ロアがハルに尋ねる。
「ねえ僕が食べたら駄目なの?」
「私は人間が好きなので、リリィが良いんです」
ハルは私達を共に旅をする仲間だと認めて春の種を差し出したのだろう。私はハルの気持ちを受け止め覚悟を決めると声をかける。
「迷ってごめんなさい。私が食べるから一緒に行きましょう」
私の決断にハルは心底嬉しそうにまなじりを下げる。
「リリィさん、ありがとうございます」
私は意を決して種を丸飲みにする。豊潤な土壌と瑞々しい青葉の香りが全身を巡り、胸の奥はじんわりと温かい。春の断片に触れたような気がしてほっと息を吐いた。
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