一人と一匹は楽園へ旅立つ

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 夜間は寒さが厳しくとも必ず火を落とす。野生の黒毛狼は火の立つところに旅人がおり荷物に食料があると知っている。穏やかなロアとは違い、黒毛狼は本来非常に凶暴で人間の言葉を使い高度な狩りを行う。襲われて怪我をすれば大変だ。 (森の民は襲われないと思うけれど、念のために)  私は焚き火の燃え残りを耐火袋に入れ懐炉(かいろ)代わりにすると三人で身を寄せ合い毛皮の毛布で保温する。こうすれば十分な温かさがあり凍死せずに済む。  ロアの呼吸音とハルの温かさに包まれながら見る雪の森は白金の月明かりに満ちている。凍てついた根雪は星屑の光を放ち木々の影を薄く引き伸ばす。目を開けたまま夢を見ているような光景だ。  夜の森の儚い幻想に包まれて私は未知の世界を知る面白さと旅の無事を祈る。素敵な旅路を信じながらゆっくりと夜は更けていく。  この時の私は旅の良さに心が囚われるばかりで、雪の森が抱える問題に気づけずにいた。  
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