城の事情、狼の怒り

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城の事情、狼の怒り

 自宅を出発して八日目の朝、傾斜がきつくなり始めた。地図を見れば楽園を囲む三つの山に近づいていることが分かる。私達は山間を通るルートを選び歩き続けた。  昼食を済ませた頃からロアの様子が落ち着かない。微風に黒毛狼の匂いが混じるのが気になると言う。黒毛狼の群れのテリトリーの中にいる可能性が高く警戒を強めている。 「……普段はこんなところで活動しないのに、おかしいなあ」  ロアの戸惑いは最もで黒毛狼は森の麓に生息し群れを作ることが多い。森の奥は雪ばかりで餌が少なく活動には適さないためだ。私は気まぐれで住み着いたのだと思うがロアは否定をする。黒毛狼は狡猾で無駄な行動はしないと知っているからだ。  一筋の風が過ぎた。その冷たさに思わず目を瞑り再び開けると、黒毛狼が数メートル離れた場所からこちらを見ていることに気づく。狼はロアより二回りは大きく、怪我のためか左目が濁る。 「クラージュ兄さん!」
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