城の事情、狼の怒り

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 隻眼の狼に真っ先に反応を示したのはロアだ。ロアには性格が真逆の勇猛な兄がおり、群れのリーダーとして活躍をしていると聞く。ロアは群れを追放されてから三年越しの再会になるらしく興奮気味だ。対して兄のクラージュは非常に落ち着いており微動だにしない。私はその対照的な反応が不気味でしかなくハルは威圧感に表情がこわばる。 「クラージュ兄さん、久しぶりだね。痩せたような気がするけれど元気そうで良かったよ」 「……その名を容易く呼ぶな。俺は雪の森の(おさ)となったのだ」 「(おさ)になるなんて兄さんはすごいや。おめでとう」  (おさ)ということはクラージュはこの森に住む黒毛狼の中で一番賢く凶暴ということだ。私は思わず後さずる。 「単刀直入に要件を伝えよう。ロア、お前には使い道がある。群れに戻れ」  クラージュの声は野太く私達の喉笛を狙う蛇のようだ。私はロアを道具扱いするクラージュを良く思わないが反論には危険が伴う。ロアは警戒を強める私達をちらりと見た後に、軽い口調ながらはっきりと自分の意思を示す。    私はその冷ややかな態度に反感を覚えた。 「使い道だなんて、ロアは物じゃないわ」
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