城の事情、狼の怒り

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「俺はロアに聞いているのだ。森の民の意見などいらぬ」    クラージュの憮然とした態度に、ロアは口を開く。 「群れには戻らないよ。僕を受け入れてくれたリリィと一緒にいるって決めているから」  ロアの返答にクラージュは大きく裂けた口から鋭い牙を覗かせゲラゲラと笑う。その声に私とハルは全身を震わせる。 「偽善者の森の民と運命を共にすると本気で考えているのか? 冗談にしては程がある」  クラージュは私を見下しながらロアに言う。森の民は黒毛狼にとって「襲うに値しない民族」であり格下と見られている。侮辱されるのはいつものことで森に住まう生物の意見の一つだと受け止めておけば良い。私には悲しみも怒りも沸かないのだと、握り拳を作り自身に言い聞かせる。 「リリィを悪く言わないで。僕には大切な人なんだ」 「人間に肩入れをしても良いことはない。奴らは我らの住処を壊そうとしている」 「それは僕達が餌を求めて人間を襲うからだよ」 「その話とは別だ。考える時間をやろう。我らと共に来るのは悪くない話だぞ」
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