城の事情、狼の怒り

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 私は信じられない気持ちのまま塊に近づく。よく観察をすれば様々な岩を積み重ねて隙間を塗り固めた壁であることが分かる。四角い光は窓にも見え、人の住む気配がしなくもない。 「人間がこんなに大きな家を作れるの? 信じられないわ」 「里の民が雰囲気の似た家に住んでいましたよ。と言っても百年前の話ですが」  ハルは神事に参加した時に見た里の様子をよく覚えている。人々は高い土壁と堀に囲まれた場所に住居を構えて住んでいたそうだ。堀は池となっており、橋を渡り門番が管理する巨大な扉から出入りをする。万が一外敵が現れた際に侵入を防ぐための工夫らしく、ハルはその技術に惚れ惚れしたと言う。  私はハルの話に驚きを隠せない。百年前に里では高度な技術を用いた住居が作られていたのだ。森の民は木造の一軒家が限界で土壁や堀といった発想はない。里の技術は日々進歩しており、岩を削る技術を持っていてもおかしくはないのだ。
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