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朝食後、私は森を敬う“森の民”として一日の予定を決める。今日はロアと一緒に屋根の雪下ろしと、雪の重みで折れた針葉樹の片付けをしようと思う。防寒具に身を包み愛用のスコップを手に取ると私達は雪の森へ出かける。
「リリィ、ちょっと来てよ」
自宅から二百メートルほど離れた場所で針葉樹の枝を折っているとロアに名前を呼ばれた。何ごとかと近づけば小川の浅瀬で二十センチほどの魚が凍死している。ロアは「食べれるかな?」と小首を傾げ私は微笑み頷いた。私は小川から魚を引き上げると仲間達に報告をするために森の広場へ足を運ぶ。
森の広場には亡くなった仲間達の白妙の蕾が咲き誇る。五十名ほどの森の民は寒さと病に倒れ、今では私が最後の一人だ。まぶたを閉じそっと祈りを捧げれば仲間の声が聞こえるような気がする。
ーーリリィはまだ十六歳で未来がある。ここで墓守になる必要はないのだよ。
一番最後に息を引き取った長老が私の耳元でそっと囁く。残される私の身を案じ自由に生きる提案をしてくれたが、森の民は外部と交流がなく私にはこの暮らし以外の選択肢がない。
(他にどんな生き方がありますか。どうか教えてください……)
囁き声に尋ねれば、質問に答えるかのように木々の合間を風が抜け、舞い上がる雪は桃色へと変わる。私は美しい光景に夢と現実の境を覗いている気持ちになる。
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